場面緘黙の子どもの理解と支援
以前、私が学校現場で出会った小学生のAさん。
学習や行事など意欲的に取り組み、とても責任感の強い子でした。しかし、学校で声を発することができませんでした。
これは『場面緘黙』といい社交不安や恐怖症の一種で、生まれつき危険に対して敏感な「行動抑制気質」をもつ子どもが多いのではないかと言われています。
園や学校など特定の状況で話せないことを指します。(長期間・広範囲で続くもの)
※ 医学的な診断では『選択制緘黙』と呼ばれ、知的障がいや自閉症スペクトラム障がいのために、他人との関りが苦手な場合は区別されます。
入園や入学のような社会的な環境にデビューする時期での発症が多いです。
また、転校や失敗体験がきっかけとなる子どももいます。あまり認知されておらず、本人は困っていても目立たず人に迷惑をかけないので、支援の開始が遅れることも多いです。
【本人の思い】
・自分でもどうして声が出にくいのかわからない。
・「話しかけてくれてありがとう」という気持ちでいっぱいだが、上手く言葉に出来なくて申し訳ない。
・「どうして話さないの?」『あ』って言ってみて」と言われると、とても辛い気持ちになる。
・話した時に、「あ!喋った!」と言われると、ドキドキする。
・『話した』『話さない』に注目しないでほしい。
【困る場面】
・出欠の返事や音読、スピーチや発表
・当番や係、小グループでの活動
・トイレや給食
・体育・音楽・図工などの実技授業
・着替えや教室移動、提出物を出す
・学校行事
・休み時間の遊び
特にこれらの場面で、もし子どもの様子に変化を感じる時は、周りの環境を整えることから始めます。
子どもの不安や苛立ちに親が巻き込まれないようにし、今の状態をありのまま受け入れて一番の理解者になることが大切です。
そして兄弟がいる場合には、その子どもが学校で場面緘黙のことについて周囲から問われることもあるので、不安な気持ちに寄り添い、いつでも話し合える関係でいることが望まれます。
次に大切なことは学校の先生との情報交換です。
・子どもの得意なことや好きなことの情報を伝える。
・教室の座席の位置を、仲の良い子と隣り合わせや同じグループにすることをお願いする。
・返事や発表はどんな方法でなら参加できそうか、具体的な支援を提案する。
子どもの反応がつかめないと先生もどう対応すれば良いかわからないので、家庭で子どもが学校や先生の話をしたら、ぜひ先生にも伝えましょう。
またクラスメイトや親しい保護者にも資料などを提示しながら詳しく説明し、協力をお願いすることも大切です。
その際『場面緘黙』という言葉は出さないほうが良いかもしれません。
例)とても恥ずかしがり屋で声をかけてもらっても、何もこたえないことがあるかもしれません。
無視しているように見えたらすみません。でも本当は嬉しく思っています。
お友達が出来たらと思っているので、ぜひ家へ遊びに来てください。など
本人にとってどのような状況が安心するか、発語しやすくなるかをよく観察してスモールステップの取り組みを始めましょう。
「楽しく」「少しずつ」「無理なく」継続して進めていくことが大事かと思われます。
私がAさんとの関りの中で最も大切にしたことは、他の児童たちに声をかけAさんが安心して本来の力が発揮できるような雰囲気作りでした。
休み時間などにAさんのことを気にかける児童が、Aさんが負担に感じない程度にさりげなく声をかけていました。
またAさんと筆記でのやりとりをし文字にすると、こんなに素晴らしい考えを持っているのだということに気付かされました。
場面緘黙は短期間では改善されませんが、根気強く向き合うことで、その子どもの良さを光らせてあげたいものです。